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2013年09月24日

Mちゃんの矯正治療 第五回 ~治療方針の説明①~

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今日は晝間先生から本格的な矯正治療計画の説明を伺います。実際にどのような流れで治療を行うのか、これまでの検査データを元に、抜歯の計画も含めてMちゃんとご家族の方への説明をしていただき、矯正の本当のスタート地点に立ちます。

来年には受験という大事な時期を控えたMちゃんは抜歯のタイミングが気になるようです。毎日充実した中学校生活を送っているMちゃん、部活などで忙しく前回の検査からやや期間が開いてしまいましたが、これからまた頑張って治療を続けてゆきます。


 

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今回はカウンセリングルームで詳しくお話を伺います。カウンセリングルームはプライバシーに配慮した個室で、大きなモニターを見ながらリラックスできる環境でこれまでの検査結果と治療計画の説明をしていただきます。

 







<カウンセリングルームにて>

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ひるま先生(以下Dr):「こんにちは。今日は、治療方針について説明します。こちらはMちゃんの治療計画書です。これまで行った検査を分析させていただきました」

ひるま先生から18ページに及ぶ治療計画書をいただきました。

治療を受けられる患者さん全員にお渡ししているそうです。

これから説明してもらう「治療計画」「検査結果」「歯の状態」など詳細な情報がびっしりと記載されていました。自宅でもすぐに確認ができるようにまとめられていて安心できます。



Dr
「まずうちの病院のシステムをご説明します。基本的に僕たちが目指してるゴールというのは、Mちゃんが80歳のおばあちゃんになった時、綺麗に治した歯並びで、その歯が全部元気であり、しっかりとご飯を食べる事ができる状態になるように、そこから逆算しています」


Dr
「今の日本人は平均で80歳で11本歯が残っていると言われており、歯がなくなると普通は入れ歯を使います。入れ歯というのは残っている歯にクリップのようなものでひっかけて装着するのですが、クリップの所に力が掛かってしまうために残っている歯がまた駄目になってしまう。結果的に全部歯がなくなってしまうというのが今の日本の平均的な流れです」

まずは現在の日本人の歯の本数がどのように減っていくのかお話を伺いました。次になぜ歯がなくなってしまうのか?先生から詳しく説明していただきました。

Dr「9割の歯は「虫歯」「歯周病」でなくなってしまいます。残りの1割は元々歯の形が悪かったり、また折れてしまったりなどの特殊な条件です。虫歯と歯周病、種類は違いますがどちらもばい菌が原因です。ばい菌が歯の表面にべったりとこびりついてしまい、毒を出したり酸を出したりする事で歯やその周りを溶かして歯がなくなってしまうのです。予防するには「ばい菌を取ってあげる事」と、「ばい菌と闘う口の中の環境のバランスをコントロールしていく事」が必要です。虫歯も歯周病も基本的には口の中の環境のバランスをコントロールしていく事で歯を守っていく事ができます。今回は矯正の検査だけでなく虫歯菌や歯周病菌とのバランスも調べました。Mちゃんが矯正治療中や治療後にも虫歯や歯周病にならないように、必要な検査と、検査の結果からどんな歯の治療をしていけば良いかを僕たちは考えています」

歯がなくなる原因は口の中の「ばい菌」である事がわかりました。

ばい菌から歯を守るためにはどのような対策をすれば良いのでしょうか?

Dr「Mちゃんだけではなく、今僕たちの病院にきてくれている患者さん全員に同じ流れで対応しています。まずはMちゃんの口の中が今どんな状況になっているかを把握するための検査をしてきました。今日はその検査結果を説明していきますね」

Dr「まず細菌を取ってから矯正治療に入ります。最初は「初期治療」という「治療のための準備の治療」です。歯石を取ったり、歯磨きの練習を行います。すぐに歯を動かす治療ではありません。歯石を取ると言っても普通の歯医者さんの治療と違い、本当に良くなっているかどうか確認する必要があります。磨き残しが減ったら矯正治療に入っていきます。矯正治療後も、歯並びが良くなった状態で本当に虫歯や歯茎の病気のリスクが下がっているかを調べるための検査を行います。下がっていなかったら再度チェックをします。残っているリスク、虫歯や歯周病になるかもしれないリスクをコントロールしていき、あとはMちゃんが大人になる過程でお口の中の環境が変わり、悪い状態になってしまうリスクがあるので、メンテナンスを繰り返していく事で歯を守れるようにします。そのための準備としての矯正治療の方針をこれからご説明していきます」

これまでの検査の分析結果と合わせて、矯正治療の方針を説明していただきます。

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Dr
「一番最初にMちゃんがきてくれた時、2008年の8歳の時の画像です。お父さんがMちゃんの歯並びが悪くなりそうだなと心配し受診した際です。この時は歯並びのチェックと虫歯と歯茎の病気予防のチェックをしました」

Mちゃんが8歳の時に撮影した写真やレントゲンの画像を元に説明して頂きました。







Dr
「この時すでに問題点があり、顎の骨の中に歯が入りきらなくて歯が重なって生えてきたり、前に出てきてしまうという状態でした。これはまだ大人の歯が生えきっていないので、この後も歯並びが悪くなっていく要素があり、この時期には治せないというお話をしました。歯磨きをしながら、きちんと大人の歯を生やしていった方がいいとお話しましたね。この時期にレントゲンを撮らせてもらって骨格などを記録し分析する事で、将来のMちゃんの骨格がある程度予想でき、将来のMちゃんの骨格と比較する事で、矯正治療を始めるタイミングや、この先どういうふうに変化していくのかがわかります」

子供の矯正を始める場合、まだ永久歯が生え揃っていない、顎の骨が成長しきっていない時点では急いで矯正を始めるのではなく、成長するまで経過観察を行う事でしっかりとした治療計画が立てられると言う事です。

Dr「すこしクリーニングをしながら、本当は3カ月に1回か、半年に1回くらいきてもらうと良かったのですが、今回はちょっと間隔が空いていますが、矯正のための検査をしてもらいました」

Dr「こんどはこちらが今のMちゃんになります。基本的に骨格のバランスは最初の時とそんなに変わっていません。顎の骨に対して歯がすごく大きいという状況で、歯が入りきらず口を閉じた時に歯が前に出てしまう状況でした。前の所が重なって生えてきたり、上の方は部分的に重なって生えてくるという状態です。」

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Dr
「このレントゲンはMちゃんの頭を固定して撮影したレントゲンになります。8歳の時と同じ条件で撮影しています。上の歯はけっこう前に出てきていますが、下の顎はあまり前に出てこないで下の方向に成長してしまっているというバランスでした。これは見慣れないと分からないのですが、上顎に対して下顎がついてきてないというタイプの成長になります。わかりやすい数字としては「ANB」という数値がありますがMちゃんは「ANBプラス7度」です。上顎に対して下顎が約7度ずれている状態なので、ずれがちょっと大きいです」


ANB
とは上下の顎の位置関係をしめす数値の事です。男性は大体2度、女性は4度くらいが通常だそうです。





お父様(以下F):
「下の顎の成長が良くなかったとの事ですか?」

Dr「劣成長です。これはFさんもそうなんです。お父さん似の骨格だと思います」

F「例えば固いものを食べさせたりすれば多少は変わるものですか?」

Dr「ものすごく固いものを噛むと良い影響があるのではないかと思います。ビーフジャーキークラスを毎日毎日食べる感じですね。かなり咀嚼回数も多くなります。食生活が豊かになりましたが軟食が増えて、咀嚼回数がものすごく減っているんですね。そのために顎が小さくなってしまっている。Fさんの場合は多分家系的に顎が細くて小さい、現代的な顔ですが、そこに現代的な食生活が加わって顎が小さい。一方で歯の1本1本のサイズはそんなに変わらないので、顎の骨が小さくて歯のサイズが入りきらずにでこぼこになり、歯が前方に突出してしまっているので口が前に出てしまっている。あとは上顎に対して下顎が後ろに位置しているので、上下とも歯並びがでこぼこしています。顎の大きさを大きくしたり小さくしたりできればいいのですが、今の医療で骨を大きくしたり小さくしたりっていう確実な医療はないんです。下顎も切ったりはできますが、普通の成長を促していく事はできないのです。手術するとデメリットもあるのでこの大きさにあわせて歯並びを治していくのがベストだと考えます。Mちゃんの場合、顎のずれは大きいですが異常というレベルではなく、個性の範囲です」

ゆるやかな食生活の変化が、私たちの歯並びに影響してしまうと聞いて驚きました。ご飯を食べる時には、よく噛んで食べなさいと言われたものですが、顎の発達のために重要な事だったのです。

F「お父さんは色々考え勉強した結果、Mには歯を抜くことが一番いいと思った。なんで矯正するかっていうと、1つは健康な歯になってもらいたい、美しい口元になってほしくて、そのために一番いい方法が4本抜歯する方法だとお父さんは思ってる。いい?」

M「はい」

F「これはたぶん大人にならないとわからないと思うけど・・・」

Dr「そうですね。歯を抜きたいっていう人は中々いない。はいそうですっていってくれる方はいらっしゃらないですけど矯正治療を確実にやっていくためには抜歯が必要ですね」

抜歯での矯正は親御さんにとっては大きな決断だという事がとても伝わってきます。Mちゃんにはまだ難しいかもしれませんが、矯正が終わった時に、親御さんの思いが伝わると良いと思いました。




■どこの部位を抜歯する?

Dr「抜歯の部位は、位置関係を合わせていくために通常であれば上下同じ場所の歯を抜歯していきますが今回は

上は真ん中から数えて4番目の歯を左右抜歯します。下は左右5番目の歯を2本抜歯していきます。この抜歯で、下は凸凹を取りながら下の前歯をあまり下げないようにわざとしていきます。Mちゃんの場合、顎が上顎に対して後ろにいますから、下の歯も上と同じように下げていくとずれがそのままの状態で残ってしまうのです。それを防ぐための抜歯ですが、骨のずれの中で歯をきちんと噛み合わせるようにしていく事ができると思っています。





■どんな歯並びになるのか?矯正後の予測の模型

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Dr
「こちらがMちゃんの矯正治療後の予測の模型になります。そしてこちらがMちゃんの現在の歯の模型です。これと同じ模型をもう一個作り、そこから矯正した後の模型をつくりました。上の歯は歯を動かしてでこぼこを取り、後ろに下げていく事によって口が閉じやすくなります。口元のバランスも改善していくと考えています。下の方は同じように前後的にずれないようにしていきますが、抜歯した部位の前歯を下げないで奥歯を前に出すように引き上げています。こうして骨のずれを治していけると考えました」

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■治療の期間はどれくらい?また治療中に起きる問題

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Dr
「この治療期間はだいたい2年半くらいです。Mちゃんの年齢はすごく歯が動きやすい時期なのでもしかしたらもっと早く治るかもしれないです。ただ逆におもったより反応が悪いこともあり、時間がかかってしまう可能性もあります。あとは上の歯をできるだけ下げていかなければいけないので治療の途中でヘッドギアを使わなくてはいけなくなるかもしれません」

Dr「ヘッドギアはこういう装置になります(※左画像参考)。お家で使ってもらってゴムがかかっているところから上顎をぐっと抑える。これは結構大変です。今Mちゃんは塾も行かれてますか?」

F「はい」 





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Dr「部活とかあって大変なんだけど、家に帰ってから使ってもらうよう途中で指示を出すかもしれません。もしこういったものが使えない場合は上顎と下顎をバネでつなげて、バネの力で下顎の歯を前に出していくというものを使います。ただこれは自分でとりはずしができないのですごく大変なんです。さらに大変になりますがアンカースクリューといって顎の骨にねじをうって歯を下げる力を強くするというものもあります。これももしかしたら使う可能性があります。できるだけこのような付加装置を使わず、動かすことが出来ればいいと思いますし、Mちゃんのケースに関しては一番負担が少ないヘッドギアを使う可能性があると思っていてください」



Staff「寝てる時もつけるのですか?」

Dr「お家にいる時はずっとですね。実は1日17時間つける必要があります。寝ている時も含めて家にいる時間のほとんどなのですが、使ってみて効かない場合が結構あるんです。そうすると口の中の装置になってしまう。小さくてパワーをださないといけないので複雑な装置になります」

F「口内炎とかもできやすいですか?」

Dr「そうですね。ごみがとてもたまりやすくなるので使い辛いです」

F「アンカースクリューはどうですか?」

Dr「使いやすいのですがMちゃんの年齢だと骨が柔らかいのでまだ使えない可能性があります」

F「受験と重なる時期ですよね?抜歯はいつ頃になりますか?」

Dr「まず歯のクリーニングから入りますので、矯正の抜歯は受験の前には終わって装置をつけられていると思います。矯正治療中に受験がくるという事ですね」

F「タイミングは先生にお任せしたいと思いますが、ただ受験の時にあんまりその・・・・・・」

Dr「今中学2年生?」

F「はい。受験の時に負担が掛かる事が心配で・・・・・・」

Dr「高校受験の時にはもうだいぶ慣れていると思います。ただヘッドギアなどを使う場合は大変かもしれません」

F「わかりました」



■矯正治療を始めるための“初期治療”

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Dr
「今後の流れを説明します。今の状態だと、磨き残しが多く、口の中に虫歯の原因となるミュータンス菌も多いので、矯正装置を装着してしまうと装置の周りに細菌が溜まって、装置をはずした時に歯がぼろぼろになるという事が起きかねません。僕たちの最終的なゴールは歯並びを綺麗にするだけではなく、Mちゃんがおばあちゃんになった時まで歯を長持ちさせる事です。矯正治療をする前に虫歯と歯周病と歯肉炎の予防をきちんとしていくためにまずクリーニングをしっかり行っていきます。」





Dr
「黄色い部分が磨き残しの所です。73%と4か所中3か所、ほとんど磨き残しがある。歯と歯の間は98.2%なのでほぼ100%磨き残しがある状態です。磨き残しを30%くらいにまで下げていかないと矯正治療は始められません。磨き残しの割合を下げるために衛生士さんと一緒に考えていきます。」

F「フロスを使っていないから磨き残しが多いのでしょうか?」

Dr「そうですね。フロスや歯間ブラシを使っていないと磨き残しは多いです。今の状況だとあまり歯間ブラシは入らないのでタフトブラシを使うのも良いです」

F「フロスはプラスチックに糸を張ってあるものですか?」


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Dr「指で奥まで入らない人はああいう物を使っていただくと良いですよ。研究結果もありますが歯ブラシだけだと7割ぐらいの人が磨き残しがあるそうです。タフトブラシや歯間ブラシというような特殊な清掃機を使っていただくとそれが95%くらいまでメンテナンスできます。ただ磨き残しが固くなっていくと歯ブラシや歯間ブラシだと落ちないので、きちんと歯科医院での機械での清掃が必要になってきます。歯ブラシや歯間ブラシを使っていく事はとても効果がありますので、そういった形で対応していきたいと思います。」




タフトブラシは細くとがった歯ブラシで歯と歯茎のすきまを磨くのに適しています。デンタルフロスは使い方に慣れるまで難しく感じますが歯肉の間を掃除する事ができます。

F「治療に伺うのは月に一回という事で良いですか?」

Dr「最初はたぶん2週間から3週間に一回くらいきてもらった方が良いと思います。だいたいですね。上顎下顎とか上顎右側とか上顎左側とか集中して部分的にやっていきます。1クール終わってみて再評価という場合が多いです」

F「なるほど。じゃあそれができるようになってから抜歯に入っていくのですね」

Dr「そうです。ですからクリーニングができない場合は矯正治療をしない方がいいですし、抜歯もしない方がいいんです」

F「逆に受験までにやっとできるようになった場合は?」

Dr「受験後に歯を動かした方が良い場合もあります」

F「わかりました。それはもう本人次第と言う事ですね」

Dr「そうですね」


■隠れていた問題 「歯の根っこが短い」!?

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Dr
「Mちゃんの隠れている問題点として、歯の根っこが短いんです。前歯が解りやすいですが、隣の歯よりも根っこが短いんです。これはもって生まれたものですがレントゲンをみると全体的に歯の根っこが短いんです」

F「そういえば私も短いって言われて・・・」

Dr「矯正治療して必ずではないのですが、根っこが吸収されて短くなってしまう方がいらっしゃいます。矯正治療後に歯の動揺があって、止まらなくなったりとか、最悪の場合、例えば矯正治療後10年とかで抜かないといけなくなっちゃう事もあるかもしれない。歯根吸収に関しては本当にわからないんですね。2004年にここに移転してきてから、一番ひどい吸収の方は600症例中1症例ぐらいなんですが、600分の1というのは低い確率ではない。歯根吸収がおきる可能性はあるんです。このリスクを回避するためには矯正治療をしないという選択になります。いつ矯正治療しても歯根吸収はおきる可能性がありますし、抜歯してもしなくても矯正治療で歯を動かし始めると歯根吸収してしまう可能性があります」


F
「短根の場合は、歯根吸収してしまう例というのはもっと可能性としては高くなるんですか?」

Dr「短根の方が歯根吸収しやすいんです」

F「そうですよねー・・・」

Dr「もともと歯の根っこの成長が活発じゃないっていうとらえ方なんですね」

F「なるほど。先ほどの600症例に1症例という事は歯の根の長い方を踏まえての600分の1という事ですか?」

Dr「そうです」

F「短根だと・・・・・・」

Dr「確率はもっと上がりますね。ただ短根でも思ったほど吸収しないっていう方も結構いらっしゃいます。さんざん僕が吸収するかも、ごめんなさいという勢いで始め、全然大丈夫でしたっていう方もいますし」

F「どれくらいの割合でしょうか?」

Dr「実際には論文や、大学の他の先輩の先生のさらにその先輩の先生が矯正治療を行って、十年後二十年後に再診に来て、抜かなくてはならなかったという方はいらっしゃいました。でも僕たちの病院では根っこの吸収はありましたが抜いたという方はまだいません」

F「先生、私に似て遺伝だとしたら私が先にやってみてもよかったのですね」

Dr「それもあるかもしれないです。歯の根っこが短くなって抜けるのではなく、周りの骨がなくなって、支えるものがなくなりグラグラになってしまいます。周りの骨を少なくしないっていうのは虫歯や歯周病の予防になり、コントロールができますので根拠のある予防はできますが、根っこの吸収という事に関してはいまだに原因が良くわからないので、特に遺伝の要素があると言われています。家系的に歯根吸収がおきやすいという可能性があるので、そのリスクがあると思って治療しないといけません」

F「わかりました。うちではそのリスクの方が大きいですね」

Dr「そうかもしれないですね。ですので、まずきちんとクリーニングができるようになってから、矯正治療を開始という流れになります」

F「わかりました。今私が心配になっているのは歯根吸収の問題だけですね。抜歯が怖かったのですが、私が先に矯正治療をやってみれば・・・」

Dr「それはもちろんかまわないです。ただ数年経たないと結果が見えてこないんです。一年後、二年後で出始めたりはするんですがそれがどの辺で落ち着くかというのはやってみないとわからない」

F「わかりました・・・」

Dr「それではこの後は、担当衛生士から今回のリスクについてご説明します」

F「ありがとうございます。(Mちゃんへ向けて)ちゃんと歯ブラシしないとだめだって」

M:「はい」

Dr「歯ブラシも大切ですが、虫歯や歯周病のリスクがどんな状態で上がるのかという知識が大切になっていきます。この後衛生士さんからお話してもらいます。今日だけで説明するには量が多く無理なので、メンテナンス、クリーニングを通して繰り返し説明していきたいと思います」

M「お願いします」

治療方針の説明②に続きます

投稿者 Kanba : 2013年09月24日 16:18 : ひるま矯正歯科

Mちゃんの矯正治療 第五回 ~治療方針の説明②~

 

 


 

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治療方針の説明の後半です。晝間先生からの説明が終わり、今度は担当の衛生士さんからこれまでの検査結果と今後の治療のお話を伺います。

 

 

 






■担当の衛生士さんから検査結果の説明 
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衛生士さん(以下DH):「前回、現在のお口の中の状態を調べました。この検査自体は2回目です。虫歯を治療した歯と、治療が必要な歯はゼロでした。

磨き残しは少しありました。チェックした場所を数字にしています。飲食の回数も問題なく、フッ素も使われていました」

 





■唾液量と虫歯、磨き残し  
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DH:8歳の時の唾液の量ですが、大人と違って歯の本数も少なく、噛む力も弱いので唾液量としてはこれぐらい少なくても問題ないです。今後改善される可能性もありますね。虫歯の原因菌が意外と多いのですが、虫歯はゼロでした。細菌が多くても歯の方が強かったので虫歯になりにくかったのではないかと思います。どちらかというとラッキーな状態が続いていますね」


F
「そうでしたか」

 

DH:「まだ虫歯は予防できていますが、歯と歯の間の歯茎に近いところで磨き残しがありました。全部で140か所こちらの中でチェックしています。この黄色く色のついている所が磨き残しです。140か所中103か所で73%です。歯と歯の間だけだと56か所に減りますが、このうちの55か所に磨き残しがあったので98%になっています。磨き残しを減らす方法としてホームケアの見直し、歯磨きの方法を確認していきたいと思います。飲食の回数は1なので問題ないですね。フッ素の歯磨き粉も使っていただいています。噛み合わせの問題で唾液の量が少ないですが、噛み合わせを改善する事で唾液量を増やす事ができると思います」

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■唾液の働き
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DH:「口の中にいる細菌たちは、私たちが食べたものを一緒に食べていきますが、その食べたものを消化しようとする時に酸を出して溶かしていきます。ミュータンス菌の出した酸によって歯の表面が解けて虫歯になっていく。その虫歯の始まりを脱灰と言います。唾液は酸を中和してくれてさらに歯を元に戻してくれる働きがあるんです。量が多い方がさらに良いです」

 



■唾液量を増やすには?

DH:「唾液量を増やす方法として、たくさん噛む事です。ガムを噛んだり、一回の食事で20回から30回噛んでください。他には一日1リットルから1.5リットルの水を飲む事で、すぐに唾液量が増えるという訳ではないですが、積み重ねる事で唾液量が増えていく方(かた)がいます。ただお茶だと利尿作用があって身体に水分として残っていられないので、コップだと1日5杯以上は飲むようにしてください。できそうな事から始めていってください」

M「わかりました」

DH:「ミュータンス菌はとても強い細菌なので減らす事ができません。子供の歯が生え揃う時期3才までの時期に細菌が入ってきてそのまま定着してしまってそこから増える事はないのですが、逆に減る事もないです。この細菌と上手く付き合っていく事で虫歯がゼロの状態を維持していく事ができます」

 

■ミュータンス菌への対策

DH:「ミュータンス菌には、活発に動かないようにフッ素で押さえつけておく事と、キシリトールを摂る事が効果的です。キシリトールを長期間取って菌が減らしていけるというデータは出ています。あんまり短期間だと効果は出にくいんですが長期間だと効果がありますので、キシリトールのガムを噛む事が良いです。後はプラークの中に入っている細菌の塊をしっかり取ってください」

 

DH:「まずは歯磨きとキシリトールを取り入れていただきたいと思います。検査で虫歯のリスクが高いと出ていますので、今の生活を続けると、虫歯ができてしまう可能性が高いです。ホームケアだったり普段の生活のなかでできそうな事から始めていただければと思います。私たちの方では機械を使って一緒に磨き残しをコントロールしていきたいと思います。あと合わせてフッ素を使っていき虫歯予防を強化していきたいと考えています」

M「はい」

 


■歯周病の話
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DH:「今度は歯周病の方ですね。今特に歯茎から出血もなく炎症症状は全く見られなくて歯茎の健康状態は問題ないです。本当は今年齢的に思春期のころになりますのでこの時期は女性ホルモンを好物とする細菌が増えていってこの時期歯茎が腫れやすくなってくる時期でもあります。その中でも歯茎の炎症がなくて歯茎の健康状態が良いので、それも維持できれば良いと思います。もう少し年齢が高くなっていって身体の方が安定してくると、こういった時期を乗り越えていく事ができると思います。歯茎に近いところの汚れもそれ以外の歯茎が炎症を起こす原因にもなりますので歯茎の近いところの汚れを取っていく事、歯茎の病気の予防に関しては歯茎のマッサージをしていく事が必要になります」

 

DH:「歯茎より上のところのプラーク除去や、歯石になってしまうと普通の歯磨きでは取れないので私たちが取っていきます。磨ける部分の汚れはしっかり取っていただいて、歯茎が炎症をおこしていかないように、Mちゃんと私たちで分担しながら歯周病を予防していきたいと思います」

 

DH:「今のところ症状も出てないので問題のあるところはないですね。唯一あるとするとプラークの蓄積量だけなのでコントロールができれば今の時期上手く乗り切っていけると思います。歯周病リスクは数字だけ見ると虫歯より少ないですが、要注意と出ているので、うまくコントロールして歯周病も一緒に予防できるようにしていきましょう」

 


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DH:「先生からの注意点があります。お家では磨き残しが心配なので、特に注意していただきたい点です。歯磨きにはクール法という磨く順番を決めて、磨きムラを減らしていきましょうという方法があります。

先生からの指示では2クール、2周磨いて下さいねと書いてあります。1周目の時には歯の面の汚れを取ってもらって2周目の時には磨いていく場所を歯茎に近いところや歯と歯の間を重点的に磨いて下さい。使っていく道具も分けながら磨いていって下さいね。フッ素のジェルを使用するように書いてありますが、家で使っている歯磨き粉の使い方を工夫していくだけでもフッ素を積極的に使えるようになるので改めてジェルを購入してもらう必要はないと思います。効率のいいフッ素の使い方があるので次回に確認していきます」

 

クール法は磨く順番を決めて2周磨くというものです。治療計画書にも記載されています。歯ブラシの当て方も合わせて記載されているので、いつでも確認する事ができます。

 

F「たとえばプラークを落としてないのにフッ素をつけても効果はあるものなんですか?」

DH:「まったくないわけではないですが、落としてもらった方がより効果は出やすいですね」

F「そうなんですか」

DH:「プラークの中にフッ素が入っていく事で細菌の働きを弱めてくれるので効果がないわけではないですが、やはり落としてもらってからのほうが良いですね」

 

DH:Mちゃんは特に治療が必要な虫歯などありませんので歯磨きがメインとなります。ホームケアの見直しを一緒に行い、医院では機械を使った歯磨き、クリーニングをしていきます。先生からは磨き残しが30%以下になったら治療を始めていきましょうというお話なので、歯茎からの出血がない今はこれを維持していきましょう。磨き残し30%以下を目標に、歯磨きの仕方の確認とクリーニングを、私たちの方で行っていきたいと思います」

 

DH:「治療が始まった後の流れは計画書に記載してあるので後で読んでおいてください。初期治療は最短だと2回です。1回目の時にはホームケアの見直しをお話していきます。2回目の時にはお話した事が実行されているかどうかのチェックを行います。状態がよければ矯正治療始めていく時に奥歯から装置をつけるのですが、その装置をつける前に準備が必要になりますので、準備を一緒にできればと思います。ただ磨き残しがあまり減っていないと、治療の回数が増えてしまう可能性がありますが、できるだけ時間を掛けずにやっていきたいと思います。この段階はちょっと面倒と感じてしまうかもしてませんが、大事な治療なのでよろしくお願いします。」

F「はい。ありがとうございました。」

 

DH:「何か心配な事はないですか?」

F「私の方からは、さっき先生から伺った短根の歯根吸収のリスクと、いつ矯正を始められるのか、心配なのはその2点です」

DH:「歯根吸収は年齢が高くなってから治療した方がでやすいみたいですね。私も成人してから矯正しましたが歯根吸収は少しでました。根っこが尖っていたところが丸くなって少し短くなったんです」

F「そうですか」

DH「はい。年齢が若い方がそういった変化はしにくいようです」

F「どうなんでしょう。今治療するのはタイミング的に悪くはない時期という事ですか?」

DH「そうですね。大人の6番も出てきているので」

F「わかりました」

DH「まずはお口の中の細菌のコントロールの治療から始めていきたいと思いますのでよろしくお願いします」

M「ありがとうございました」

 

 

●●取材を終えて●●

矯正治療を始めるために必要な事、始めてからの注意点、将来を見据えての治療計画、なんのために矯正するのか、晝間先生の説明は1時間におよび、しっかりと説明を伺う事ができました。衛生士さんからは現在の口の中の状態を詳細に分析したデータを説明していただき、どのようなリスクがあって、どう対応していけばいいのかを分かりやすく教えていただきました。Mちゃんの一生懸命に説明を聞いている姿と、同席されたお父様の子供の歯並びを考えて悩む親としての姿が印象的でした。先生のお話を聞いていると段々とMちゃんよりもお父様の方が熱心になって、たくさんの質問をされていました。親御さんにとっては子供のためになるようにと考えての矯正という決断でしたが、それにともなう抜歯という選択、また今後起こる可能性のある歯根吸収などのリスクを詳細に説明していただいて、最後まで悩まれているのが伝わってきました。受験と重なる時期に矯正治療を行う事もあり、矯正する本人だけではなく、家族の方の心の準備もしっかりと行う事が重要であると感じました。

投稿者 Kanba : 2013年09月24日 16:00 : ひるま矯正歯科